こんにちは。めたろんです。
たまには日本文学に親しんでみたいけれど、どの作品が自分に合っているかわからない、とっつきにくい感じがして読み始めるまでのハードルが高い・・。
そんな社会人の方のために、私が愛してやまない井伏鱒二の「山椒魚」を紹介したいと思います。
Contents
【読書】おすすめ文学:井伏鱒二「山椒魚」
井伏鱒二「山椒魚」をおすすめする理由
おすすめ理由1「文章そのものが心地いい!」
これは大事ですよね。ストーリーをつかむまで頑張って読み進めるまでもなく、読み始めからもう心地いい。作家が広島県の出身であることも関係していると思いますが、訥々として力の抜けた、無二の語り口だと私は思います。
おすすめ理由2「魅惑的な短編集であること」
時間の余裕がない毎日にとりいれる読書では、コンパクトながら深みと豊穣な世界観をもつ短編作品はありがたいですよね。加えて井伏作品では、短編という枠を忘れるほど自然でゆったりとした時間が流れているのも特徴だと思います。
おすすめ理由3「日本を舞台としながら日本ではないような不思議な味わい」
表題作にして処女作である「山椒魚」が書かれたのが昭和5(1930)年であり、おそらくその頃の日本の空気を醸してもいるでしょう。しかしそれだけでなく、どこか遠い名もなき土地を旅行しているような感覚を覚える作品も多いです(「へんろう宿」「言葉について」など)。
いかがでしょうか。興味をもっていただけたでしょうか。
次項で「山椒魚」のあらましを一部ご紹介したいと思います。
文庫本で11ページほど、掌編といってもいいほどの小さな作品ですが、この小さな世界の中に確かなきらめきがあります。
井伏鱒二「山椒魚」の概要
山椒魚は悲しんだ。
〜「山椒魚」より引用
この書き出しを知っている方は多いかもしれません。
なぜ悲しんだか。
お話の主人公である山椒魚はどこかの沼か川の岩の窪みの中に2年ほどじっとしていた結果、出入り口よりも体が大きくなってしまい、外に出ることができなくなってしまったのです。
けれど山椒魚は「悲しんだ」のですね。このシンプルさというか愚かさというか到底うまく説明できませんが、もうこの書き出しから山椒魚くんが愛おしいです。
~
「なんたる失策であることか!」
~
「いよいよ出られないというならば、俺にも相当な考えがあるんだ」
しかし彼に何一つとしてうまい考えがある道理はなかったのである。
気の毒な山椒魚。これからどうするのでしょうか。
仕方がないので彼は小さな窓から外の光景を眺めて過ごします。
ましてやそこから動く自由を奪われたら・・。その眼差しはどれほど寂しく切実なものだろうと想像します。
日が徒らに過ぎていく中、岩屋に小さなエビが迷い込んだり、山椒魚が脱出を試みて失敗したり、いつくかのエピソードが語られます。
「ああ寒いほど独りぼっちだ!」
山椒魚の悲しみは深刻さを増していきます。
そんな時に一匹のカエルが登場し、ささやかな物語が舵を切ります。なんと山椒魚はカエルが入ってきた小さな穴を自分の体で塞ぎ、彼が二度と外に出られないようにしてしまったのです。
「しめしめ、自由を謳歌していた者を自分の同じ囚われの境遇にしてやった!」
さあ、ここからお話はどうなるのでしょうか?
すでにお話の終わりに近いのですが、この時点では想像しがたい読後感が待っています。
何よりこの作品の文章の魅力は、あらすじ紹介ではほぼ伝わらないと思います。
珠玉の掌編。ぜひ読んでみてくださいね(^^)!