「正解が変わるかもしれないと思いながら働く」Webディレクター18年、仕事と好奇心

インタビューサンプル2:

ミキさん。45歳女性、独身。正社員でWebディレクターとして働いている。業務内容は、自社アプリ内でのプロモーション施策の企画/実行分析 Webサイト運営。

 

本日はお時間をいただきありがとうございます。ミキさんのお仕事について、また仕事についての考え方についてなどうかがえればと思います。よろしくお願いします。

 

こちらこそ、よろしくお願いします。Webディレクターという仕事は、ひとことで説明するのが難しいんですが、私の場合は「ユーザーにサービスを届けるために、人や情報をつなぐ仕事」だと思っています。今日は私の経験がお役に立てばと思いますので、何でも聞いてください。

 

ありがとうございます。「ユーザーにサービスを届けるために、人や情報をつなぐ仕事」ということですが、お仕事の概要についてもう少し教えていただけますか?

 

私が担当しているのは、自社で運営しているアプリの利用促進や認知向上のための施策です。

例えば、「新しい機能をもっと使ってもらいたい」とか、「休眠しているユーザーに戻ってきてもらいたい」といった課題があるとします。そうすると、アプリ内でどんなキャンペーンを打つかを考えたり、告知ページを作ったり、プッシュ通知の内容を検討したりします。

ただ、私自身がデザインを作るわけでも、システムを開発するわけでもありません。企画を形にするために、デザイナーやエンジニア、マーケティング担当者など、さまざまな職種の人たちと連携して進めていきます。

また、施策を実施したら終わりではなくて、「実際にどれくらいの人が利用したのか」「期待した効果が出たのか」を数字で確認します。結果が良くなければ原因を考えますし、良かった場合も「なぜうまくいったのか」を振り返ります。

そういう意味では、企画者でもあり、進行管理役でもあり、分析担当でもあるという感じですね。

仕事の時間の多くは、人と話したり、データを見たり、資料を作ったりして過ごしています。実際に手を動かして何かを作るというよりは、いろいろな人の力を集めてプロジェクトを前に進める役割が大きいですね。

 

なるほど、現在運用されているアプリの存在を前提としたお仕事になりますね。このようなお仕事が発生したのは、スマートフォンが登場してからという認識なんですが、いかがですか?

 

そうですね、かなり関係は深いと思います。ただ、私自身は「スマートフォンの登場によって生まれた仕事」というより、「昔からあった仕事が形を変えたもの」だと感じています。というのも、商品やサービスをたくさんの人に届けるために企画を考えたり、宣伝したり、効果を測定したりする仕事自体は、インターネット以前からありました。例えば雑誌の編集者や広告代理店の担当者、販促担当者などが担っていた役割ですね。

それがスマートフォンやアプリの普及によって、より細かく、より速くできるようになったんだと思います。例えば昔の広告だと、チラシを配って「何人が見たのか」を正確に知るのは難しかったですよね。でもアプリだと、「通知を送った人が何人いて、そのうち何人が開いて、実際に利用したのは何人か」といったことがかなり細かく分かります。

その分、求められるスピードも速くなりました。以前なら数か月単位で考えていたことを、今は数日や数週間で検証して改善することもあります。私がこの仕事を始めた頃は、まだWebサイト運営が中心でしたが、ここ10年くらいでアプリの比重がかなり大きくなりましたね。ですので、スマートフォンがこの仕事を大きく変化させたのは間違いないと思います。

ただ、根本にあるのは「人に情報を届けて、行動につなげる」という昔から変わらないテーマなのかな、と感じています。

 

ミキさんはこのWebディレクションのお仕事は何年されているんですか?

 

今年で18年になりますね。新卒で入った会社は広告制作系の会社だったんですが、その頃はまだ「Webディレクター」という肩書きも今ほど一般的ではありませんでした。最初はWebサイトの更新作業や進行管理の補助のようなところから始まったんです。

当時はスマートフォンも今ほど普及していなくて、パソコン向けのサイトが中心でした。バナー広告を作ったり、キャンペーンページを公開したり、そういった案件が多かったですね。

そこから何度か転職をして、ECサイトの運営に関わった時期もありましたし、コンテンツ制作が中心だった時期もありました。現在の会社ではアプリ運営やマーケティング施策に関わる割合が大きくなっています。

18年もやっていると、技術や媒体は本当に変わったなと思います。昔は「ホームページを作ること」自体に価値がありましたが、今は作るだけでは誰にも見てもらえません。どうやってユーザーに届くか、どう継続的に利用してもらうかという部分がより重要になっています。

一方で、人が興味を持つ理由や、使いやすいと感じるポイントは意外と変わらない気もします。だから、新しい技術を学び続けながらも、人の行動や心理に興味を持ち続けることが、この仕事では大事なのかなと思っています。

 

18年というのは、とても長いご経験ですね。 18年前というとミキさんが20代後半かと思いますが、その前はどんなお仕事をされていたんですか?

 

実は、Webの仕事に就く前からずっとIT業界にいたわけではないんです。新卒で入ったのは広告制作系の会社だったんですが、最初の数年はどちらかというと紙媒体の仕事が中心でした。企業のパンフレットや販促ツール、雑誌広告などの制作進行を担当していました。

ただ、ちょうどその頃に企業のWebサイト制作の案件が増えてきて、「紙だけではなくてWebもやりましょう」という流れがあったんです。私も最初は知識がないまま関わり始めて、HTMLって何だろうとか、サーバーって何だろうとか、本当に手探りでした。

もともと私は、何かを作る人というより、人と人の間に立って話を整理したり、物事を進めたりすることの方が得意だったんですね。ですので、デザイナーやエンジニアとクライアントの間に立つディレクション業務がだんだん面白くなっていきました。

振り返ると、「Webが好きだから入った」というより、「制作の現場で働いていたら、時代の流れとともにWebに移っていった」という感覚の方が近いかもしれません。当時はまさか18年も続けるとは思っていませんでしたね。興味のあることを追いかけていたら、気がついたらここまで来ていたという感じです。

Webディレクションの以前も広告の仕事をされていたということで、一貫して販促・マーケティングのご経験を積まれてきたと思うのですが、ここまで継続されてきたということの中には、ミキさんが面白いと思う部分や、 逆に言うと辞めたいと思わないような魅力がこの分野にはあったということでしょうか。

たしかに振り返ってみると、媒体は紙からWeb、そしてアプリへと変わっていますが、「人に何かを届ける仕事」という意味では一貫しているかもしれません。

私が面白いと感じているのは、正解がないところですね。例えばエンジニアの仕事だと、もちろん創造性はあると思うんですが、ある程度「正しく動くかどうか」という基準がありますよね。でも私の仕事は、「この企画は当たるだろう」と思っても全然反応がなかったり、逆にあまり期待していなかった施策が大きな成果を出したりします。

人の興味や行動を相手にしているので、予測しきれない部分があるんです。だからこそ、「なぜなんだろう」と考える面白さがあります。それから、私は人そのものに興味があるんだと思います。データ分析もするんですが、数字だけを見ているわけではなくて、その向こうにいる人たちを想像するんですね。

例えば利用率が下がったという数字を見たときも、「この数字の背景では何が起きているんだろう」と考える。忙しくなったのかな、ニーズが変わったのかな、それとも私たちの伝え方が悪かったのかな、と。そういうふうに人の行動や心理を考えることは、18年経った今でも飽きないですね。

一方で、やめたいと思ったことがないわけではないですよ(笑)。納期に追われたり、部署間の調整で板挟みになったり、成果が出なくて落ち込んだり。そういうことは何度もありました。でも、不思議と「この業界そのものを離れたい」とはあまり思わなかったんです。

たぶん私は、何か一つの専門技術を極めたいタイプではなくて、人と人の間に立ちながら、新しいことを考えたり、仕組みを作ったりすることに面白さを感じるタイプなんだと思います。だから、仕事の内容は変わっても、「人に何かを届ける仕事」の周辺にずっといるのかもしれませんね。

 

転職を考えていてWebディレクションという仕事に興味を持っている人はたくさんいると思うのですが、この仕事に入るために例えば年齢ですとか、バックグラウンドなど、中途採用の際に求められる条件というものがあれば教えてください。

 

はい、これはよく聞かれる質問ですね。まず結論から言うと、Webディレクターという仕事は比較的、中途で入りやすい職種だと思います。というのも、「Webディレクターになるための国家資格」や「特定の学部を出ていなければならない」といった条件がないんです。実際、私の周りにも営業出身者、編集者出身者、接客業出身者など、さまざまなバックグラウンドの人がいます。

ただし、年齢が上がるほど未経験で入るハードルは高くなるのも事実です。例えば20代なら、「ポテンシャル採用」で育成前提の求人もあります。でも40代になると、企業側はどうしても即戦力を期待します。ですので、未経験でWebディレクターを目指す場合は、年齢よりも「これまでの経験をどう活かせるか」を説明できることが大切だと思います。

私自身が採用側として見るなら、実はWeb制作の知識そのものよりも、仕事の進め方を見ますね。

例えば、

  • 関係者と調整した経験があるか
  • スケジュール管理をしてきたか
  • 相手の要望を整理して形にした経験があるか
  • 数字を見ながら改善した経験があるか

こういった経験はディレクション業務にかなり活かせます。逆に、「Webが好きです」「SNSをよく見ています」だけだと少し弱いかもしれません。それから、意外に思われるかもしれませんが、私はコミュニケーション能力という言葉をあまり重視していないんです。もちろん人と関わる仕事ではありますが、話が上手な人が向いているとは限りません。

むしろ、「相手が何を求めているのかを丁寧に聞ける人」「分からないことを分からないと言える人」「認識のズレを放置しない人」の方が、この仕事では信頼されると思います。ですので、もし40代や50代で転職を考えている方なら、「未経験だから無理」と考えるより、「これまで培った調整力や進行管理能力をどう活かせるか」を考えた方が現実的だと思いますね。

ただ一方で、正直に言うと、最近はWebディレクターという職種自体も変化しています。以前は制作進行が中心でしたが、今はデータ分析やマーケティングの知識、場合によってはAIツールの活用なども求められます。

ですので、「一度覚えれば終わり」という仕事ではありません。新しいことを学び続ける姿勢は、年齢に関係なく必要だと思います。

 

おっしゃるように、ここ数十年でも紙媒体からウェブへの移行、それに加えてスマートフォンへの対応やAIの利用など、本当に変化が激しい領域だと思うのですが、ミキさん自身はそういった変化や新しい技術への対応に苦労している、というようなことはありますか?

 

ありますね(笑)。

むしろ、18年やっているからこそ感じる苦労かもしれません。若い頃は、新しい技術が出てくると単純に面白かったんです。知らないことを覚えること自体が楽しかったですし、仕事が終わってから本を読んだり、休日に勉強したりすることもそれほど苦ではありませんでした。でも40代になった今は、仕事の責任も増えていますし、体力も20代の頃とは違います。限られた時間の中で何を学ぶかを選ばなければいけない感覚がありますね。

特にここ数年は、AIの進化がすごく速いじゃないですか。正直に言うと、最初は少し焦りました。「これまで自分たちが時間をかけてやっていたことが、一瞬でできるようになるかもしれない」「自分の仕事はどう変わるんだろう」という不安はありました。

ただ、実際に使い始めてみると、今のところは仕事がなくなるというより、仕事のやり方が変わる感覚の方が強いですね。例えば企画のたたき台を作ったり、文章のアイデアを出したり、調査の補助をしたり。そういう部分ではAIを活用することも増えています。一方で、「何のためにその施策をやるのか」とか、「ユーザーは本当にそれを求めているのか」といった判断は、まだ人間が担う部分が大きいと感じています。

それから、変化への向き合い方も昔と少し変わりました。20代の頃は、全部理解しようとしていたんです。でも今は、「全部追いかけるのは無理だな」と思っています。だから、自分の仕事に関係するものを優先して学ぶようになりました。

少し諦めに聞こえるかもしれませんが、実はその方が長く続けられる気がしているんです。仕事を続けていると、「最新情報を知っている人」が評価される場面もありますが、それ以上に「変化にどう適応するか」が問われると思うんですね。

私自身、紙媒体の時代からここまで働いてきて感じるのは、技術そのものよりも、「学び続ける姿勢」と「知らないことに対する抵抗感の少なさ」の方が大事なのかな、ということです。だから今でも、新しいツールが出るたびに「また覚えることが増えたなあ」とは思いますよ(笑)。でも同時に、「この変化の先に何があるんだろう」という好奇心も、まだ残っている気がします。

 

全部追いかけるのは無理というのは、あきらめのようでいて、実際はとても大切な認識なんじゃないかと思います。 ミキさんの関わっている広告、マーケティングなどのお仕事は、常に変化をしていて、状況に対応するという能力が求められますよね。例えば、仕事の段取りなどに固定観念やこだわりを持ち続けるのは難しいのではないかと推測しますが、どうでしょう。

 

そうですね。今のお話を聞いて、「まさにそこかもしれないな」と思いました。

というのも、私自身、若い頃は「こうやればうまくいく」という成功パターンを持ちたかったんです。

仕事って、経験を積むほど効率的になりますよね。だから一度成果が出たやり方を再現したくなるんです。

でも、広告やマーケティングの仕事を続けていると、その成功パターンが意外と長持ちしないんですよ。

例えば、ある時期には効果的だった集客方法が、数年後にはほとんど通用しなくなっていたりします。ユーザーの行動も変わりますし、プラットフォームの仕様も変わりますし、競合も変わります。

そうすると、「前はこうだったから」という考え方だけでは対応できなくなるんです。

もちろん経験は大事なんですが、経験を絶対視しすぎると逆に危険なこともあるんですよね。

実際、私が尊敬している先輩たちの中には、長年の実績があるにもかかわらず、「もしかしたら自分の考えが古いかもしれない」と言える人が多いです。

私はその姿勢がすごく大事だと思っています。

一方で、何もかも変えればいいわけでもないんですよ。

例えば、人との信頼関係を築くとか、相手の話をきちんと聞くとか、仮説を立てて検証するとか、そういう仕事の土台になる部分はあまり変わらない気がしています。

だから私の中では、「変えていい部分」と「変えない部分」を見極めることが大切なのかなと思っています。

たぶん若い頃は、新しいものを覚えることが変化への対応だと思っていました。でも今は少し違っていて、「自分が正しいと思っていることを疑えるかどうか」の方が大事だと感じるようになりました。

それはなかなか難しいんですけどね(笑)。

人間ってどうしても、自分が時間をかけて身につけたやり方に愛着が湧きますから。

でも、仕事を続ける中で、「正解を持つこと」よりも、「正解が変わるかもしれないと思いながら働くこと」の方が、この業界では大切なのかもしれないな、と感じています。

 

「正解が変わるかもしれないと思いながら働くこと」ここに適応していける人材というのは、やはり万人というわけにはいかないと感じました。 例えば、仕事への愛着という面で考えた場合、対象である仕事が常に変化してしまうことに、うまく適応できない人もいるのではないかと思います。 例えば事務業務だとか、なんらかの職人であるとか、仕事の構成や手順がある程度固まっていて、そうであるからこそ安心して取り組めて、枠組みの中で成長し、能力を発揮できるという人もいますよね。

 

ええ、それは本当にそう思います。

むしろ私は、「変化に適応できる人が優れていて、そうではない人が劣っている」という話では全くないと思っています。

今おっしゃったように、世の中にはさまざまな仕事があって、それぞれに求められる資質が違いますよね。

例えば事務職でも、正確性や継続性が非常に重要な仕事があります。毎回やり方が変わるよりも、決められた手順を安定して実行できることが価値になる場面も多いです。

また、職人さんの仕事でも、長年積み重ねた技術を磨き続けることで価値が生まれる世界があります。

私はそういう仕事に対して、むしろ尊敬の気持ちがあります。

というのも、私はどちらかというと変化の多い環境にいるので、「同じ品質を維持し続ける難しさ」を知っているんです。

ですから、適性の違いなんだと思います。

実際、私の周りでもWeb業界に入ったけれど、「毎年のように変わる状況に疲れてしまった」という人はいます。

逆に、変化が少ない環境だと退屈してしまう人もいます。

どちらが良い悪いではなくて、自分がどちらのストレスに耐えやすいか、なのかもしれません。

面白いのは、私自身も20代の頃は「変化が好きな人間」だと思っていたんですが、45歳になった今は少し違う感覚もあるんです。

実は、人間って変化だけでは疲れてしまうんですよね。

だから私も、仕事の中には変化を求めますが、生活の中ではわりと同じカフェに行ったり、同じ散歩コースを歩いたりしています(笑)。

そう考えると、人は誰でも「変化したい気持ち」と「安定したい気持ち」の両方を持っているんじゃないでしょうか。

ただ、その比重が人によって違う。

私の場合は仕事の面では比較的変化を受け入れやすかったので、この業界に残っているのだと思います。

でももし私が別の資質を持っていたら、例えば経理や事務の専門職として長くキャリアを築いていた可能性も十分あったと思います。

だから転職を考える人に対しても、「成長できそうな仕事を選ぶ」というより、「自分の性質に合ったストレスを選ぶ」という視点は意外と大事だと思うんです。

好きなことや得意なことももちろん大切ですが、長く働くうえでは、「どんな負荷なら受け入れられるか」というのも、同じくらい重要な気がしています。

 

仕事によって求められる特性が違うというのは確かにそうですね。 ただ、すこし視点をずらして、継続という面で考えると、合っていると思われる仕事に就いた場合でも、数年働くうちに飽きてしまったり嫌になってしまったり、継続できない人もたくさんいると思うんですが、 ミキさんが18年この仕事を継続されてきたのには、何か工夫だったり、我慢だったりということが必要だった場面というのはありましたか?

 

ありますね。

それも、一度や二度ではなくて、何度もありました。

実は私、自分のことを「仕事に対してものすごく情熱的な人間」だとは思っていないんです。

若い頃は、「好きな仕事に出会えれば、一生夢中になれるんじゃないか」と思っていた時期もありました。でも実際に18年働いてみると、どんな仕事でも飽きる時期はあるし、嫌になる時期もあるし、自信を失う時期もあるんですよね。

だから継続の秘訣を聞かれると、意外と「好きだから続いた」ではない気がしています。

むしろ、「仕事に対して過剰な期待をしなくなったこと」が大きいかもしれません。

20代の頃は、仕事にやりがいや成長や自己実現を求めていました。

でも、それを全部仕事で満たそうとすると苦しくなるんですよ。

思うような成果が出なかったり、理不尽なことがあったりすると、「こんなはずじゃなかった」と感じてしまう。

一方で年齢を重ねる中で、仕事は人生の大切な一部ではあるけれど、人生そのものではないと思うようになりました。

そうすると少し楽になったんです。

もちろん責任を持って取り組みますし、成果も出したい。でも毎日が充実していなければならないとか、常に成長し続けなければならないとか、そういう考え方からは少し距離を置くようになりました。

それから、工夫という意味では、「小さく役割を変える」ことは意識していたかもしれません。

同じWeb業界にいても、担当するサービスや業務内容は少しずつ変えてきました。

制作寄りの仕事をしていた時期もあれば、コンテンツ運営に近い時期もありましたし、今はマーケティングの割合が大きいです。

完全に別の業界へ行くのではなく、同じ分野の中で少しずつ立ち位置を変えることで、新鮮さを保ってきた部分はありますね。

あと、我慢について言うと……。

若い頃は「向いていない部分も克服しなければいけない」と思っていたんですが、今は「苦手なものは苦手だな」と認めるようになりました。

私は細かい事務処理を延々と続けるのは得意ではありませんし、人前で強くリーダーシップを発揮するタイプでもありません。

だから、自分が苦手なことを無理に好きになろうとはしなくなりました。

その代わり、自分が比較的自然にできることを活かせる環境を探すようになりました。

そう考えると、18年続いた理由は「我慢強かったから」ではなくて、仕事との付き合い方を何度も調整してきたからなのかもしれません。

若い頃は、継続というのは同じ場所で頑張り続けることだと思っていました。

でも今は、続けるためには変わることも必要なんだな、と感じています。仕事そのものを変えることもありますし、仕事への期待の仕方を変えることもありますし、自分自身の考え方を変えることもあります。

そういう小さな調整を積み重ねながら、気がついたら18年経っていた、というのが実感に近いですね。

 

仕事にやりがいや成長や自己実現を求めすぎない、というのは大切なライフハックかもしれないですね。少し即物的な話になりますが、定時前、定時後の業務についてはどう考えられていますか?仕事へのコミット、自己実現を考えると、長時間勤務について問題にすること自体ナンセンスという側面もある一方で、ワークライフバランスへの考慮も求められるようになってきました。

 

そうですね。このテーマは、私自身の考え方もかなり変わった部分です。

20代や30代前半くらいまでは、「仕事が面白いなら時間はあまり気にならない」という感覚がありました。

実際、Web業界は納期前になると残業もありましたし、新しい企画を考えるために家で情報収集をすることもありました。そういうことをあまり疑問に思っていなかったんです。

むしろ当時は、「頑張っている人ほど評価される」という空気もありましたし、私自身も多少はそう考えていたと思います。

ただ、40代になって思うのは、長時間働くことと成果を出すことは必ずしも一致しないということです。

もちろん、繁忙期やトラブル対応で一時的に勤務時間が長くなることはあります。でも、それが常態化している組織には何かしら問題があることも多いんですよね。

例えば業務設計が悪いのかもしれませんし、人員配置に無理があるのかもしれませんし、「頑張る人がなんとかしてしまう」文化になっているのかもしれません。

だから今の私は、「どれだけ長く働いたか」よりも、「限られた時間でどれだけ価値を出せたか」の方を重視しています。

それと、少し身も蓋もない話をすると(笑)、年齢を重ねると体力には限界があります。

若い頃は徹夜しても何とかなったことが、今は翌日どころか数日影響することもあります。

そういう現実を無視して、「昔はもっと働いた」という話をしても意味がないと思うんです。

だから私は、ワークライフバランスという言葉自体は少し流行語っぽく聞こえることもありますが、「長く働き続けるための技術」としては重要だと考えています。

一方で、ここは少し誤解されやすいところなんですが、私は仕事とプライベートを完全に切り分けるタイプでもないんです。

例えば休日にたまたま面白いサービスを見つけたら、「これ仕事にも活かせそうだな」と考えることはありますし、本を読んでいて仕事のヒントを得ることもあります。

ただ、それは会社に強制されているわけではなく、自分の好奇心の延長なんですね。

私にとって理想なのは、「会社のために人生を捧げること」でも、「仕事は一切考えないこと」でもなくて、仕事が人生の一部として自然に存在している状態かもしれません。

そして、その状態を維持するためには、十分な休息や、自分の時間も同じくらい大事だと思っています。

若い頃は「どれだけ頑張るか」がテーマでしたが、今は「どうすれば無理なく続けられるか」の方が大きなテーマになっていますね。これは18年働いてきたからこその実感かもしれません。

 

仕事が人生の一部として自然に存在している状態は、幸せの一つの形とすら言えそうだなと感じました。広い視点で働き方についてお聞きしてきましたが、ミキさんのお仕事についてもう少しうかがえればと思います。あるアプリについて「新しい機能をもっと使ってもらいたい」とか、「休眠しているユーザーに戻ってきてもらいたい」といった課題への対応ということをうかがいました。課題やデータをもとに対応を考えて関係者にプレゼンをし、具体的な対応行動につなげるということでしょうか?

 

はい、おおむねその理解で合っています。

実際の仕事の流れを簡単に言うと、

「課題を見つける」

「原因を考える」

「打ち手を考える」

「関係者と実行する」

「結果を分析する」

というサイクルを回している感じですね。

ただ、面白いのは、「データを見て答えを出す仕事」というより、「データを手がかりに仮説を立てる仕事」に近いところなんです。

例えば、「新機能の利用率が想定より低い」というデータが出たとします。

でも、その数字だけでは理由は分かりません。

ユーザーが機能の存在に気づいていないのかもしれませんし、興味がないのかもしれませんし、使い方が分からないのかもしれません。

ですから、「なぜだろう」という仮説をいくつか立てるんですね。

そのうえで、

「まず認知不足を疑ってみよう」

「アプリ内に案内を出してみよう」

「プッシュ通知で知らせてみよう」

「説明ページを改善してみよう」

といった施策を考えます。

そして、その施策を実施するために関係者と調整していきます。

おっしゃるようにプレゼン資料を作ることもありますし、会議で説明することもあります。

ただ、私の感覚では「説得する」というより、「みんなで仮説を検証するための共通認識を作る」という方が近いかもしれません。

というのも、私の企画が必ず正しいわけではないからです。

エンジニアから技術的な視点の意見が出ることもありますし、カスタマーサポートからユーザーの声が共有されることもありますし、デザイナーからUI上の課題が指摘されることもあります。

そうやって議論する中で施策が磨かれていくんです。

だから実は、この仕事で一番大事なのは企画力よりも、「不確実なものを扱う力」かもしれません。

例えば営業職だと、お客様と直接会話して反応を見ることができますよね。

でも私たちは、何万人、何十万人というユーザーを相手にしています。

その全員に話を聞くことはできません。

だからデータやアンケートや問い合わせ内容など、断片的な情報を集めながら、「たぶんこうなんじゃないか」という仮説を組み立てるんです。

私はこの部分が、難しくもあり、面白くもあるところだと思っています。

実際、会議で「この施策ならきっと効果が出ます」と言い切ることはほとんどありません。

むしろ、

「現時点ではこれが最も有力な仮説です」

「まずは小さく試してみましょう」

という話し方をすることが多いですね。

そういう意味では、正解を当てる仕事というより、正解に近づくための実験を繰り返す仕事なのかもしれません。

 

なるほど、いくつかの事実をもとに考え、手探りでトライしていく、冒険のような感じもしますね。結果が保証されているわけではない、というのが印象的です。負荷もかかるが、やりがいの核でもあるような。

 

ええ、まさに「冒険」という表現はしっくりきますね。

ただ、面白いのは、私自身は若い頃ほど「成功させなければ」とは思わなくなったことです。

もちろん成果は出したいですし、失敗したいわけではありません。でも18年やっていると、どれだけ経験を積んでも予想が外れることがあると分かってくるんです。

だから最近は、「当てること」よりも「学ぶこと」の方に意識が向いているかもしれません。

例えば、ある施策が期待した成果を出せなかったとしても、

「なぜ反応がなかったのか」

「私たちは何を見落としていたのか」

「ユーザーは何を求めていたのか」

が分かれば、それはそれで価値があるんです。

もちろん会社としては成果も重要ですから、何でも実験すればいいわけではありません。ただ、失敗を完全になくそうとすると、逆に何も挑戦できなくなってしまうんですよね。

ですから、「小さく試して、小さく失敗して、小さく学ぶ」という考え方はかなり大切にしています。

それと、今おっしゃった「負荷もかかるが、やりがいの核でもある」という言葉にも共感します。

私は以前、自分は何に面白さを感じているんだろうと考えたことがあるんです。

そのとき気づいたのは、「正解が分かっている作業をこなすこと」よりも、「まだ答えが見えていない問題をみんなで考えること」の方に惹かれているんだな、ということでした。

もちろん、それは疲れます(笑)。

毎回答えが決まっている仕事の方が精神的には楽な場面もあります。

でも、何か月も考えていた施策がうまくいって、数字として結果が出たり、ユーザーから良い反応が返ってきたりすると、「ああ、やってよかったな」と思うんです。

ただ、ここで一つ付け加えると、やりがいという言葉も少し難しいなと思っています。

若い頃は、やりがいのある仕事を探していたんですよ。

でも今は、「やりがいは仕事の中に最初から存在しているものではなくて、後から見つかるものなのかもしれない」と感じています。

目の前の課題に向き合って、誰かと協力して、試行錯誤して。その結果として、「この仕事には意味があったな」と振り返る。

私にとってのやりがいは、そういうものに近い気がしますね。

ですので、結果が保証されていないことは確かに負荷です。でも、その不確実さがあるからこそ、うまくいったときの喜びもある。

たぶん私は、その両方を含めてこの仕事を続けているんだと思います。

 

18年の経験の中で、思うような結果が出なくても、居場所を失うことはないし、何度でもチャレンジできる、という実感や自信を得られてこられたように感じます。現状で、不満や不安な点があれば、そういったこともお聞きできればと思うのですが。

 

そうですね。

今のお話を聞いて、確かに昔よりは「一度の失敗で全てが決まるわけではない」という感覚は持てるようになったと思います。

20代や30代前半の頃は、施策がうまくいかなかったり、会議で厳しい指摘を受けたりすると、「自分の能力が否定された」と感じることもありました。

でも経験を重ねる中で、仕事の結果と自分自身の価値は必ずしも一致しないと分かってきたんです。

もちろん責任はありますし、反省もします。でも、一つの失敗で人間としての価値まで失われるわけではない。

そう思えるようになったのは、長く働いてきた中で得た財産かもしれませんね。

ただ、不安がなくなったわけではありません。

むしろ45歳になった今だからこその不安もあります。

例えば、この業界は変化が速いので、「自分の知識や経験がいつまで通用するんだろう」という不安はあります。

AIの話もそうですし、ユーザー行動もどんどん変わりますし、新しいプラットフォームも出てきます。

若い頃は「頑張れば追いつける」と思っていましたが、今は「何を追いかけて、何を手放すか」を考えなければいけない年齢になったと感じます。

それから、少し個人的な話になりますが、独身ということもあって、将来への漠然とした不安はありますね。

仕事は好きですし、今のところ健康にも恵まれています。

でも、この先10年、20年と考えたときに、働き方をどう変えていくのかは時々考えます。

以前はキャリアアップという言葉に関心がありましたが、最近は「長く働き続けられること」の方に関心があります。

管理職になることだけが成功なのか。

収入を増やし続けることだけが幸せなのか。

そういうことも含めて、考え方が変わってきました。

あと、不満というほどではないんですが、この仕事は成果が数字で見える反面、人との関わりが間接的なんですよね。

私はユーザーの行動データを毎日見ていますが、その数字の向こうにいる一人ひとりの顔は見えません。

だから時々、「実際に利用している人の声をもっと聞きたいな」と思うことがあります。

数字は大事ですけれど、人は数字だけではないので。

もしかすると、これは18年やってきたからこその感覚かもしれません。

効率化や最適化を考える一方で、人間そのものへの興味はむしろ強くなっている気がするんです。

ですから、今の不安は「仕事が嫌だ」というものではなくて、

「この先どういう形で働いていきたいのか」

「何を大切にしながら年齢を重ねていくのか」

そういう問いに近いのかもしれませんね。

 

人間そのものへの興味はむしろ強くなっている ということですが、今後のキャリアでこうしていきたい、というイメージがあれば教えてください。

 

そうですね。

正直に言うと、20代の頃のような「5年後にはこうなっていたい」「10年後にはこの役職に就いていたい」といった明確なキャリアプランは、今はあまり持っていません。

以前はそういう目標を立てることが大事だと思っていたんですが、これだけ変化の速い時代を経験してきて、未来を細かく設計しすぎても思い通りにはならないことを学びました。

ただ、その代わりに「どういう状態で働いていたいか」というイメージはあります。

一つは、人と向き合う時間をもう少し増やしたいということです。

先ほどもお話ししたように、今の仕事ではユーザーを数字やデータとして見る機会が多いんですね。

もちろんそれは重要なんですが、私は年齢を重ねるほど、一人ひとりの人間が何を感じ、何を考えているのかということに興味を持つようになりました。

だから将来的には、ユーザーインタビューやコミュニティ運営のような、もっと直接的に人の声に触れる仕事に関わるのも面白いかもしれないと思っています。

それから、若いメンバーの支援にも関心があります。

実は管理職そのものに強い憧れはないんですが、自分がこれまで失敗しながら学んできたことを、誰かに還元できたらいいなとは思うんです。

特にこの業界は変化が激しいので、スキルだけでなく、「どうやって不確実な環境と付き合うか」という部分で悩む人も多いんですよね。

そういう人たちの相談相手になれたら嬉しいなと思います。

ただ、私が大切にしたいのは、「何者かになること」よりも、「好奇心を失わないこと」かもしれません。

18年前にこの仕事を始めた頃は、まさかアプリのプロモーションを担当しているとは想像していませんでしたし、AIを使いながら仕事をする時代が来るとも思っていませんでした。

だからこれから先も、きっと予想していない変化があると思うんです。

そのときに、「もう年だから分からない」と閉じてしまうのではなく、「それは面白そうですね」と言える自分でいたい。

今のところは、それが私のいちばん大きなキャリアの目標かもしれません。

肩書きや役職よりも、人への興味や好奇心を持ち続けながら働いていたい。

そんなふうに年齢を重ねられたらいいなと思っています。

 

自分がこれまで失敗しながら学んできたことを、誰かに還元していく、というのはミドル世代、シニア世代が手応えを持って働き続けるためのキーにもなりそうですね。最後に、少し毛色のちがう質問をさせていただきたいです。今なんのお仕事もしていない0の状態だとして、これから一緒に働きたいと思う人はどんな人ですか?

 

面白い質問(笑)。「Web業界で一緒に働きたい人は?」ではなく「今、何の仕事もしていないゼロの状態だとして」という前提がいいですね。

そう考えると、スキルや経歴より先に思い浮かぶものがあります。

私は、「この人と話していると、自分の考えが少し広がるな」と感じられる人と働きたいです。

若い頃は、能力の高い人や成果を出している人に惹かれることが多かったんです。

もちろん今でも尊敬はします。

でも長く働いてきて思うのは、仕事って能力だけで成り立つものではないんですよね。

毎日顔を合わせたり、一緒に悩んだり、時には失敗したりしながら進んでいくものなので、「この人といると自分が窮屈になるか」「この人といると自然体で考えられるか」が意外と大きいんです。

ですから、知識が豊富な人や優秀な人というよりは、

「分からないことを分からないと言える人」

「自分と違う意見を持っていても対話できる人」

「何かに興味を持ち続けている人」

に惹かれる気がします。

それから、これは年齢を重ねて感じるようになったことなんですが、人の弱さに対して少し想像力のある人がいいですね。

仕事をしていると、誰でも調子の良い時と悪い時があります。

若い頃の私は、どうしても能力や結果ばかり見ていたところがあったんですが、今はそういう見方だけでは人は理解できないと思っています。

ですので、完璧な人よりも、失敗した経験があったり、遠回りをした経験があったりして、その分だけ他人に寛容な人に魅力を感じます。

そしてもう一つ挙げるなら、「仕事だけで自分を説明しない人」でしょうか。

これは少し抽象的なんですが、仕事ができることはもちろん大切です。

でも、仕事以外に好きなものがあったり、大事にしている時間があったり、人としての厚みを感じられる人と一緒にいると、結果的に仕事も面白くなる気がするんです。

だからもし本当にゼロからチームを作るとしたら、私は経歴書を眺めながら考えるよりも、その人と一時間くらい話をしてみたいですね。

何に怒るのか。何に喜ぶのか。

どんなことに興味を持っているのか。

そういうことを聞いてみたい。

結局のところ、私はユーザーにも興味がありますが、人そのものにも興味があるんだと思います。

だから最後に挙げるとしたら、「相手を知ろうとする人」と一緒に働きたいですね。

仕事は一人ではできませんから。

お互いを理解しようとする姿勢がある人たちとなら、たとえ未経験の仕事だったとしても、案外面白いものが作れるんじゃないかと思います。

 

人の弱さに対して少し想像力のある人というのは、たしかに貴重な存在ですね。想像力というのはわかりやすくトレーニングする場がないように思えるので、自分も意識していきたいと思いました。転職や仕事について考えていると、自分の限界や、社会の厳しさを否応なく認識していかなければいけませんが、お話をうかがっていて、自分の気持ちを見失わないこと、人について素直な好奇心をもつことで、楽しさを失わず道を開いていけるのかもしれないと感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

こちらこそ、ありがとうございました。とても楽しい時間でした。

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